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「方丈記」本文     鴨 長明

行く河の流れはたえずして しかも もとの水らにあらず
よどみに浮かぶうたかたは かつ消え かつ結びて 久しく留まるためしなし
世の中にある人とすみかと また かくのごとし
たましきの都のうちに棟を並べ 甍を争へる 高き 卑しき人の住まひは
世々を経て尽きせぬものなれど これをまことかと尋ぬれば
昔ありし家はまれなり あるいは去年焼けて今年作れり
あるいは大家滅びて小家となる 住む人もこれに同じ
所も変わらず 人も多かれど いにしへ見し人は二 三十人が中に僅かに一人二人なり
朝に死に 夕べに生まるるならい ただ 水の泡にぞ似たりける
知らず 生まれ死ぬる人 いづかたより来たりて いづかたへか去る また知らず
仮の宿り たがためにかこころを悩まし 何によりてか 目を喜ばしむる
その 主と住みかと 無情を争うさま いはば 朝顔の露に異ならず
あるいは露落ちて花残れり 残るといへども朝日に枯れぬ
あるいは花しぼみて露なほ消えず 消えずといへども夕べを待つことなし

2012年10月23日 大谷 誠 


  



 
 
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