通常、こうした偽サイトには住所が載っていません。もし、あっても番地までだったり、公園などのまったく別な場所だったりと、ネットで調べれば明らかにおかしい住所で、すぐに「怪しい」と気づけます。
ところが、この会社概要には、しっかりと住所が記載されていました。ビル名はないものの「7F」との表示までされています。敵もさるもので、銀座三越を名乗るだけあって、場所も銀座一丁目です。この会社の住所を見て、銀座三越関係のサイトと思ってしまう人もいるかもしれません。
さて、この住所にこの通販業者は存在するのでしょうか?
銀座一丁目の住所にたどり着いた。そこにあったのは…
確かめるために、現地に向かいました。すぐにそのビルは見つかりました。しかしここには、スポーツやゲーム関連を手掛ける有名企業の名が書かれています。
玄関のところにいる案内係の男性に、住所を尋ねると、「確かにこの住所であっています」とのこと。念のため、「7Fに『OUTLE** LI**SH**』という会社はありますか?」と尋ねてみると、首を横に振ります。どうやら、このビルにはこの企業しか入っておらず、そうした会社は存在していないそとのことでした。
「隣も同じ住所になるので、そちらかもしれません」と言われて行ってみましたが、2階建てですので違います。目の前に交番があったので、尋ねてみても、やはり、このビルしか考えられないとのこと。やはり、虚偽の住所でした。とはいえ、一見しただけではわからない住所にしています。
せっかくなので、本物の「銀座三越」へ行って偽サイトに関して尋ねた
すぐ近くに銀座三越があります。せっかくですので、この偽サイトのことを直接に聞いてみることにしました。同社の受付でこの件を話すと、すぐに担当者の方が下りてきてくださり、モバイルの画面で「この通販サイトでしょうか?」と尋ねてきます。「はい」と筆者はうなずきます。
すでに、同社の側でも問題の偽サイトを把握していたようです。そこで「このサイトは御社と関連があるのでしょうか」「このサイトによる被害はあるのでしょうか」と質問をすると、後日、公式に連絡をもらえることになりました。
翌日、広報担当者から連絡がありました。
「このサイトは、銀座三越のサイトとは一切関係のないものになります。すでに警察には相談しており、フェイスブック社へ広告の削除依頼もしています」
筆者が驚いたのは、「お客さまからのお問い合わせは2件のみで、被害のご報告は入っておりません」との担当者の言葉でした。
確かに、この銀座三越をかたる偽サイトで被害を受けたという書き込みは見つけられませんでした。おそらく金銭的被害は出ていないということで間違いないでしょう。なぜなのでしょうか?
同社の広報担当者と話すなかで、被害が出ていない理由が二つみえてきました。
なぜ、銀座三越の偽サイトは精巧なつくりなのに実被害が出てないのか
一つ目は、対応のスピーディーさです。
筆者が偽サイトについて、同社に直接尋ねた翌日には、公式の連絡が届きました。これまでの筆者の経験上、大手企業ほど詐欺に関するレスポンスは遅い傾向にありますが、同社の対応は非常に早かったのです。詐欺との戦いは時間との戦い。この対応の早さは詐欺を防ぐうえで、重要なファクターになります。
二つ目は「当社では、偽サイトの存在をいち早く見つけて、削除するようにしています」との言葉にありました。
ここは極めて重要なポイントです。
社名をかたられた多くの企業は、実際に被害が起こって、購入者からの問い合わせや通報を受けてから偽サイトの存在を知り、それから対応をします。これが一般的ともいえます。しかしこれでは、対応が後手に回ってしまいます。
それに対して同社は「自社をかたった偽サイトは必ず出てくる」との認識を持って、目を光らせて、いち早く偽サイトおよび、誘導広告を削除するように動き、HPでもそれに応じて「三越を名乗る不審なショッピングサイト・広告にご注意ください」との注意喚起をすぐに行う。つまり、積極的な偽サイト対策を講じていたのです。
これは大事な考え方で、被害を防ぐには「犯罪者はくる」と思っての対応・対策を、事前にしておくことが何より大切です。
「自社をかたった偽サイトは必ず出てくる」との認識が必須
言うまでもなく、ブランドは信頼の証しです。詐欺犯らはこれを悪用して、ネット利用者をだまそうとしてくる。自社の名前をかたって偽サイトを立ち上げてくる。そう考えて、事前の対策を講じて、すぐに動ける体制をとっておいた。ここにこそ、同社への問い合わせが2件のみで、被害報告なしの理由があるのだと思います。
同社のHPでの注意喚起には「最近、三越を名乗る不審なショッピングサイト・広告が存在することを確認しております。なりすましのショッピングサイトは、アカウント名にロゴやマークを入れるなど、当社のアカウントに酷似させております。お客さまにおかれましては、くれぐれもご注意いただきますようお願い申し上げます」とあり、調べたところ、すでに6月の段階で、Ginza-Mitsukoshiをかたる偽サイトへの注意が行われていました。その時は、今回のロンシャンではない別のブランド品をかたって販売していたということです。
このように、偽サイトでは扱うブランド品を変えながら、同じような代金引換の手口で、利用者をだます行為が繰り返されていることがわかります。もしお金を払ってしまうと、相手の住所は架空で連絡がとれませんので、お金を取り戻すのは極めて難しくなります。いかに、この偽サイトの罠に気づき、排除できるかが被害回避の鍵になります。
通販利用者が偽サイトであることを見抜くことは、もちろん大切ですが、企業側が“ブランドを悪用した詐欺は必ずやってくる”と常に警戒し、偽サイトおよび、そこに誘導する広告をいち早く見つけて排除する。こうした売る側の姿勢と、買う側の双方の警戒の目があってこそ、今、急増している偽物ブランド品のだまし売りの被害をなくすことができるのです。 |